消えても忘れられても

こんにちは。広島で遺品整理業を立ち上げたはっぴいえんどの西本です。

今回は私が“死”の意味を意識した出来事について書いてみたいと思います。

死というものが実在すると言いますか、死というものが誰にでも訪れるのだと知ることになるのは往々にして身近な人の死です。

とても悲しい経験ですが、自分自身が最初にそれに出会ったのは中学生の時の祖父の死ということになります。今までそこに存在していた人がいなくなることの、言葉では表現しきれない喪失感みたいなものの経験でした。中学生の頃のその経験はあまりに表現に乏しく、今となっては感じるものが少なかったのかもしれないと思っています。

年齢を重ねるということは、誰かの死を知るということと比例しています。
大人になってそれを痛感します。これからもその機会は増えてゆくことでしょう。だからこそその意味みたいなものを知りたくて遺品整理業を立ち上げたわけです。


そんな私にとって、ふとした時に今でも心のそばを通り過ぎてゆく“死”があります。

加藤和彦
大瀧詠一

この2人の死が私にとって忘れられない、そして今でも自分の心の中に様々な想いを去来させてくれる死です。
今回は加藤和彦さんについて綴ってみたいと思います。

加藤和彦さんはご存知でしょうか?
若い方はもしかしたら知らない方も多いかもしれません。
加藤和彦さんは音楽家・シンガー・ミュージシャンです。

1947年生まれで1960年代後半にザ・フォーククルセダーズのメンバーとしてデビューします。
大ヒットした『帰ってきたヨッパライ』は稀代の奇曲として知られています。
ザ・フォーククルセダーズは解散しますが、その後組んだサディスティック・ミカ・バンドでは世界的にも評価を受けました。言ってみれば今の日本のロック・ポップスの礎を築いた音楽史にとって超重要な人物なのです。

耳にするところでは『あの素晴らしい愛をもう一度』という名曲も加藤和彦さんの曲です。ほか、初期の吉田拓郎大ヒット曲『結婚しようよ』のアレンジも手がけていて、まだJ-POPという言葉もない頃の音楽界を席巻していた人物の1人です。

私はこの頃の加藤和彦の大活躍の頃はまだ生まれておらず当時の空気は知りません。
私が加藤さんの音楽と出会ったのは2002年のザ・フォーククルセダーズの“新結成”の時です。この頃の私は大学生。日本のポップ・ロックの歴史に興味があり、吉田拓郎、井上陽水、中島みゆきなどの作品を聴きあさっていた頃です。吉田拓郎とのつながりの重要人物として加藤和彦という人物を知り、調べようとしていたところへ伝説のフォークバンドであるザ・フォーククルセダーズの新結成というニュースが飛び込んできたということでした。

加藤さんの音楽はザ・フォーククルセダーズやサディスティック・ミカ・バンドなどグループごとに全然異なっていて、フォークのメロディーが綺麗だったかと思えば、一方激しいロックも奏でるといったどれもかっこよくてオシャレな人。そんな人でした。

私はザ・フォーククルセダーズの新結成から加藤和彦のCDを遡って聴き漁ることになります。この頃の加藤和彦さんはすでに音楽史のレジェンド的存在でそんな姿にも憧れました。社会人になってからも忙しない日々の中でも加藤さんの新作がリリーズされればCD屋さんに走ってそれを聴いていました。


加藤和彦さんは2009年の秋、軽井沢で自ら人生を閉じました。


このニュースを聞いた時の衝撃を今でも忘れられません。今でもその瞬間を思い出すことがあります。
この頃の加藤さんは2つのグループで新作を発表したばかりでした。どちらもいつもながらすごい音楽で全然テイストも違っていて、加藤さんの才能は全く衰えることはないんだなぁと楽しく曲を聴いていた覚えがあります。


音楽が鳴っていた日常が「加藤和彦死去」というたった1行のニュースで根底から揺らいだのです。そして加藤さんが自ら命を絶った場所が軽井沢のホテルでした。そのころの私はホテルで働いていたのです。これもまた何かを感じざるを得ませんでした。

つい今まで聴いていた音楽を創った人があっという間にいなくなってしまったという喪失感とどこか信じられない感覚。なかなか言葉にできません。


「世の中が音楽を必要としなくなり、もう創作の意欲もなくなった。死にたいというより、消えてしまいたい」


加藤さんの遺書にはこのような言葉が綴られていたそうです。
心から尊敬していた音楽家の最後の言葉がこれでした。

ここで私が受けた衝撃は今も止んではいません。
今でもこの言葉に私なりの言葉を心の中で育み続けています。

そして加藤さんの死から12年が経とうとしています。
加藤さんの新曲はもう生まれなくなりました。そのことは本当に寂しいです。
しかし、今でも加藤さんが創った音楽は鳴り続けています。

まだまだ私には音楽は必要です。だから加藤和彦は消えてはいません。



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