読書日記 第18回 『2016年の週刊文春』

こんにちは。広島で遺品整理業を営むはっぴいえんどの西本です。

1日遅れの読書日記です。
今回取り上げるのは柳澤健著『2016年の週刊文春』です。
著者の柳澤健さんは元文藝春秋社出身のノンフィクションライターです。
かつて「週刊文春」で記者もされていたこともある人で、その頃のエピソードもこの作品にはたくさん書かれています。
そのほかにも文芸春秋社のスポーツ誌「Number」でも記者をされていたらしく、プロレス関係のノンフィクション作品はとても評価が高い人です。私もこの『2016年の週刊文春』以外にも『2011年の棚橋弘至と中邑真輔』を楽しく読ませていただいています。

日本で「週刊文春」を知らない大人はいないでしょう。
この『2016年の週刊文春』は、「週刊文春」創刊から現代までの歴史を花田紀凱と新谷学という2人の名編集長を軸に描くノンフィクションです。

文藝春秋という日本の出版史において重要な雑誌を持つ会社の中で、1段下に見られていた「週刊文春」。その週刊誌が文藝春秋社という会社の中で重要な雑誌に成長してゆく過程と編集部の戦いを、歴史に残るスクープの裏舞台とともに描くという内容です。

書いているだけでワクワクしてきます。

ロス疑惑
田中角栄
坂本弁護士一家殺害事件
地下鉄サリン事件
酒鬼薔薇聖斗事件
シャブ&飛鳥の衝撃
沢尻エリカ逮捕

作中に出てくる事件やスクープはこれだけに留まらず、さながら昭和・平成・令和の歴史を総ざらいしている感覚になるほどです。言ってみれば日本の社会史・芸能史は「週刊文春」とともにあったということが読めばわかります。

そのスクープの舞台裏は読めば読むほど手に汗握る展開で、読み進めるページをなかなか止めることができないくらい熱中しました。芸人の東野幸治さんもYouTubeのラジオで絶賛していました。
とりわけ印象的だったのが、酒鬼薔薇聖斗事件の元少年Aが手記を出版した時のこと。
週刊文春は秘密裏に班を組み、元少年Aに直撃取材を敢行しようと調査をしていました。
ついに元少年Aを発見し、直撃した時の場面はいまだに夢に出てくるくらい衝撃的でした。
ぜひ読んでいただきたいシーンの一つですね。

このように語っておいてなんですが、この作品は単に数々のスクープの裏話満載という内容ではありません。
この作品は、週刊誌の記者の奮闘ぶりと編集部の人間模様も魅力の一つです。
週刊誌も結局は会社員です。
異動もあれば部署内でのいざこざもある。
そんな中で社会の中へ飛び込んで毎週記事を書く。

会社で働く人にとっては共感するところ大の感情や場面を多く出てきます。
そんな中で“いい仕事”をすることに邁進する記者たちの姿はとても心を打ちます。

こんな舞台裏があったのか・・・人間模様があったのか・・・目から鱗の話ばかりなのです。

週刊誌の内容に目を顰めることはしょっちゅうですし、私自身、週刊誌なんて大嫌いなのですが、そこで責任を背負って記事を書いて奮闘している“人”までを全否定することはできなくなりました。そこには“本気の人”がいたのです。

そしてもう一つの視点。
週刊文春編集部の奮闘は出版業界を盛り上げ、スクープの数々は週刊誌競争や雑誌の競争を勝ち抜いてゆきます。
社内でも週刊文春の価値や立場がどんどん上昇してゆきます。
それは絶対ドラマ化できるなぁというほど胸が熱くなるのですが、それも時代が進むにつれて変化が訪れます。

それが今です。

週刊文春は記事の中身を誰にも真似できないスクープで作り、他の追随を許さない立ち位置に到達した。
しかし、今は雑誌そのものが売れない時代になった。

その中でどう週刊文春が生き残ってゆくか。
試行錯誤をする“今”の週刊文春を描きながらこの作品は終わります。

人間ドラマとしても会社ドラマとしても最高傑作と言えるほどの内容です。
本当に面白いです。



そして、この作品の続きは本の外に出る事になります。

私たちは週刊文春の“試行錯誤”にある意味振り回されながら日々を過ごしています。
政治家の首も世論の盛り上がりも週刊文春が提供するネット記事=文春オンライン発という場面を見たことはありませんか?

私はこの本を読んだ後に、文春オンライン発のスクープ連発を思わないではいられなくなりました。
今やジャニーズ関係の解散は公式発表の数分前に文春オンラインが記事を出すのが当たり前になりました。
文春オンラインの記事が俳優の人生を180度地獄に突き落とす瞬間をたくさん見てきました。

そこにも“本気の人”はいるのだなぁと思います。
そして、その“本気の記事”の対象になった人にも間違いなくドラマがあります。

この作品のおかげで、週刊誌は悪という視点は単純には持てなくなりました。
その一方で単純にスクープ記事で世論が振り回される事にも警戒心を持つことに躊躇もなくなりました。

世の中も人の心も人の歴史も一言で片付けられるほど“単純”ではありません。

そんな深い世界や人生にリスペクトです。

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