読書日記 第10回 『イルカも泳ぐわい』

こんにちは。広島で遺品整理業を営むはっぴいえんどの西本です。

昨日は曜日の勘違いをしていまして、本来ならば昨日は「読書日記」を更新する水曜日でした。
もし楽しみにしてくださっている方がいらっしゃったらごめんなさい。
1日遅れにはなりますが、今日(10/7)更新させていただきます。

今回紹介したい作品は、加納愛子著『イルカも泳ぐわい』です。
著者の加納愛子さんは、以前にもこのブログで取り上げたことがあります(「“自分本位でなくなったことで広がった世界”」)。

加納さんはお笑いコンビAマッソのひとりです。
まだまだお茶の間で“お馴染み”の人・・・にまでは上り詰めてはいないかもしれませんが、今年はラジオの冠番組が始まったり、テレビでもレギュラーを持っているなど大躍進の1年となっている“注目の人”です。実際、つい先日、「実は結婚をしていた」という週刊誌の記事でちょっとした話題にもなりました。

その記事を記念して・・・ブログを書きましょう・・というのは全くの嘘で、実はこのブログで「読書日記」というシリーズを書こうと思ったきっかけはこの『イルカも泳ぐわい』なのです。

“満を持して”10回目を迎える今回、『イルカも泳ぐわい』を取り上げたいと思いました。

この『イルカも泳ぐわい』こそ、ここ近年読んだ本で一番面白かった作品です。もう圧倒的にです。
この本が強烈の面白かったので、私はそれ以降、Aマッソに注目をし続けていて、彼女たちが“売れて”大躍進することを楽しみに応援をしています。

この作品の秀逸なところは“言葉選び”です。
加納さんの言葉遣いは芸人としてしやべっている時も“普通とは違う”言葉を使おうとしていることがよくわかるのです。

「問屋製家内工業、Aマッソの加納です。」と先日のラジオでは自己紹介をしていました。
お笑い芸人の言葉選びを分析することはこの世で最も無粋なことなので詳しくは書きませんが、“問屋生家内工業”という言葉をいきなり選ぶ人は普通はいません。

変なことを言う人はたくさんいるのですが、加納さんの使う言葉は、明らかに“本”にルーツを感じます。
彼女のプライベートはよく知りませんし、別に興味もないのですが、間違いなく読書家ではあるでしょう・・・と言うことがよくわかるお笑いをしています。

生きていると、「この人は本をたくさん読んでいるだろう」とわかることってありますよね?私は人と出会うことの楽しみの一つはそれだったりします。この人は「読書家だろう」と思えば、「どんな本を読んでいるんですか?」と聞くのが私の楽しみだったりします。

加納さんはまさにそう言う対象です。

そんな読書家がお笑いをやっていることが面白いなぁと思うのです。

そしてそんな言葉選び秀逸芸人が本を書いた!となれば、その本を読まない手はありません。

作品はいわゆるエッセイです。
しかし、単なるエッセイでは終わらないと言いますか、“言葉の力”で心の中も、情景も見事に表現されていて、エッセイなのに物語だと勘違いするほどの濃密さです。

0時の「だからなに?」感 

1時の「この時間やともう連絡したらあかん」感  

2時の「こんなはずじゃなかった」感

3時の「やってもうてる」感 

4時の「だれもいらん時間」感  

(中略)

19時の「子どもと大人の境目」感  

20時の「ここ充実してないとあかん」感  

(続く)

これは『イルカも泳ぐわい』のある章から少しだけ引用をした部分ですが、24時間をこんな感じで綴っています。
これはほんの一部ですが、どれも思い付かない言葉を選びつつ、共感を呼ぶと言う・・・これは離れ業だなぁと膝を打ちました。私はこの24時間の言葉たちをメモにとっているくらい気に入っています。

芸人としての加納さんは言葉選びは秀逸だと言うことは間違い無いのですが、面白いことに拘っているので、場面によってはとても尖っているし、ふざけてもいるわけです。それも凄い魅力ではありますが、この芸人としての一面を剥がすと文章の表現者としての凄みもあるという人間としての厚みを感じます(いささか絶賛しすぎでしょうか)。

実際に、この『イルカも泳ぐわい』は文芸界では高評価を受けているのでしょう。
この作品の出版以降、小説誌に連載を持っているなど文筆家として大活躍しています。
春にはあの『文芸界』に短編小説を書いていて、『文芸界』といえば石原慎太郎も書いている権威ある文芸誌です。

「おいおい、ついに大小説家に並んだんかい!」と思わずツッコんでしまいました。

ぜひこの若い才能に注目いただければと思います。

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