読書日記 第9回 『国家なる幻影〜わが政治への反回想』

こんにちは。広島で遺品整理業を営むはっぴいえんどの西本です。

今日(9/29)の午後に新しい自由民主党の総裁が決まりましたね。
岸田文雄新総裁の誕生です。広島の議員さんですね。
このニュースについてもちろん思うところはあります。
それについては日曜日の「今週の思っちゃった」で記したいと思います。

今回の読書日記は岸田新総裁の誕生を記念して、“政治もの”の名著を紹介します。

石原慎太郎著『国家なる幻影〜わが政治への反回想』です。

政治についての本は、実は多岐にわたるジャンルがあります。
例えば、このようなものがあります。

政治ドキュメントもの(新聞社やジャーナリストが取材を通して、舞台裏で何が起きていたのかを深掘りする)
思想もの(評論家が国の在り方について論じているもの。例えば対中国政策ものや国家を憂いている評論集など)
回想もの(政治家など事件や政策の当事者が当時を振り返って証言を残すもの)

どれもそれぞれの立ち位置から政治や政策を論じているものでとても勉強になります。

今回の石原慎太郎さんの『国家なる幻影』は1999年に発表された“回想もの”です。
私はこの本を大学生の時に読みました。
石原慎太郎の視点から見た、いわば昭和の政治史です。

芥川賞作家で国民的スターであった石原慎太郎がなぜ政治の世界に進んだのか。
その進んだ政治の世界で国民的スターが見た景色はどのようなものだったのか。
政治の舞台裏で渦巻く人間模様。

他にも回顧録では小泉純一郎の秘書を務めた飯島勲氏の『小泉官邸秘録』なども貴重な証言が満載で面白かったですが、石原慎太郎は何しろ国民的作家ですから、その作家が政治家・石原慎太郎を書いているわけで、読み物としてもどんどん読み進められるのです。

有名なところでは石原慎太郎は反田中角栄的なるものの急先鋒でした。

金権政治の象徴たる田中角栄
台湾よりも中国を大切にする象徴たる田中角栄
産業を金で引っ張る理念なき政治の象徴たる田中角栄

これらを若い石原さんはとことん嫌い、自民党の中でも“反主流派”の道を進みます。
それらへの嫌悪を隠さず舌鋒鋭く田中政治的なるものを切る石原さんのこの思想は学生時代の私にも強い影響を与えてくれています。

のちに石原さんは環境庁長官(現在の環境省)に就任するのですが、その時のエピソードも今から見ればとても運命的です。石原環境庁長官は水俣病問題に真摯に向き合っているという実績があります。日本を揺るがした公害問題です。この時の経験がのちに東京都知事の時の“ディーゼル抑制”政策などにつながるのです。

そのほか、歴史に残る人物たちとの交流なども石原さんからの視点で描かれていてそれだけで史料的な価値もあって面白いです。

例えば、石原さんも尊敬していた三島由紀夫とは石原さんの政界進出をめぐって喧嘩をしていたりします。それを石原さんは政界へ大人気で進出している自分への“嫉妬”と切り捨てています。こんなところは人間的で実に面白いです。

読み応えのある伝説となるエピソードが満載です。

この本は石原さんが政治の世界に失望しながら議員辞職をすることで終わります。
これがどこか寂しげな終わりなのですが、ご存知の通りこの本の発表から何年もしないうちに東京都知事として政治の世界にカムバックするのだから人の人生はわからないものです。

回顧録の面白さはこのようなところにもあるんです。
後世の人間がこの回顧録を読み、その後の歴史を辿ることで“答え合わせ”ができる。
本当に豊かなことだと思います。

ただ、それって誰しもが持っている豊かさだとも思います。
誰かが歩んだ人生はそれそのものが財産で得難いものです。
それを本という形で歴史に残り、後世の人間がそれを読んで学び、味わう。


私自身、この遺品整理や生前整理という仕事を通じて、そのような出会いをたくさんしたいと思っているんです。
考えてみれば、そのきっかけはこの『国家なる幻影』だったのかもしれません。

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