読書日記 第7回 『昭和45年11月25日』

こんにちは。広島で遺品整理業を営むはっぴいえんどの西本です。

今回は水曜日恒例の読書日記です。
今回紹介したい作品は中川右介著『昭和45年11月25日』です。
著者の中川右介さんは私の好きな文筆家です。
私が中川さんを知ったのは『松田聖子と中森明菜』という作品でした。1980年代に大活躍した松田聖子と中森明菜の比較評伝です。多くの文献を漁ってそれを一つの本にまとめている中川さんの作風はそれぞれの文献だけでは見えなかった詳細な出来事や、その周囲で誰が何を思っていたのか、何が起きていたのかを浮かび上がらせるもので、とても面白いのです。

私は中川さんの文献などの資料から様々なエピソードを拾って壮大な物語を作る作風をとても気に入っています。

他にも『阿久悠と松本隆』『SMAPと平成』『市川雷蔵と勝新太郎』『松竹と東宝』『團十郎と歌右衛門』などなど博覧強記で震えるほど様々な作品が発表されています。現代史を紐解く名作で且つ資料にもなるというのが中川作品の特徴でしょうか。


話を戻しますと、昭和45年11月25日とは日本を代表する作家である三島由紀夫が自衛隊市川駐屯地で割腹自殺をした日です。私自身、生まれる10年までの出来事です。

『昭和45年11月25日』は多くの著名人が三島由紀夫の割腹自殺の報道をどのように知り、何を思ったのか。何を行動したのか。などを徹底的に調べて一つの本にまとめたものです。

三島由紀夫の割腹自殺という事件は当時の日本にとってどれくらい衝撃的なことだったのか。
事件の後に生まれた私にはその当時の空気というものがよくわかりません。字面だけだと“割腹”だったり“自衛隊駐屯地に襲撃をかけて”挙句に自殺しているとか、今同じことが起きても腰を抜かすほどの大事件です。そしてそれが大ベストセラー作家で、評価も世界的だった三島由紀夫だという・・・。どこを切り取ってもにわかには信じがたい事件です。おそらく先日ブログにも書いた“9.11”と似たような感覚を覚えたのではないかと思うのです。

事実、色々な人があの事件を強く受け止めているらしく、自伝であるとかエッセイであるとか何かしら書き残されているという点に注目してこの作品が書かれたようです。

本の帯にはこのようなことが書かれています。

事件当日、彼らは何をし、何を思ったか。

川端康成、野坂昭如、中曽根康弘、佐々淳行、後藤田正晴、石原慎太郎、佐野眞一、村上春樹、村上龍、篠山紀信、澁澤達彦、佐藤栄作、浅利慶太、久世光彦、小澤征爾、勝新太郎、杉村春子、鈴木邦男、武満徹、田中角栄、中村彰彦、堤清二、中村吉右衛門、五木寛之、舛添要一、松任谷由実、松本隆、坂東玉三郎、早坂茂三、横尾忠則、若尾文子、四方田犬彦、浅田次郎、芥川比呂志、森村誠一、目黒考二、円地文子、永六輔、入江相政、有吉佐和子、大江健三郎・・・ほか

これだけの人がこの本には登場します。
そして面白いのが、あの日三島由紀夫が市川駐屯地で何をして何を話して、どのように自殺したかは書かれていないのです。

この物語の中心はあえて描かず、上記の人たちが報道や何かしらの連絡で事件を知ってゆく過程と何を思ったのかの記述を集めることで、三島の割腹自殺事件を表現しているのです。

これだけの人たちが書物やインタビューなどで三島事件について言及しているという事実にも驚かされます。

と同時にこれだけの資料を集めて読み込んで、一つのストーリーにまとめ上げた著書の中川さんの労力にも感服するという作品です。

本丸である三島の詳細は描かれることなく、事件の発生、その報道、そして結末を誰かが証言した言葉などで表現してゆく様は、外堀が少しずつ埋められてゆくプロセスみたいで小説を読んでいる感覚に陥ります。

例えば、石原慎太郎氏の言葉。

この日、作家石原慎太郎はホテルニューオータニに部屋をとり、仕事をしていた。(中略)石原は秘書からの電話で事件を知った。

《三島氏が盾の会のメンバーと一緒に市ヶ谷の自衛隊東部方面総監本部に赴きなにやらとんでもない事件を起こしたらしいと知らされた》と、石原は一九九六年に書いた『国家なる幻影』で回想している。

石原は急いで部屋のテレビをつけた。それを見ているうちに、《当事者の三島氏の呼び方が変わっていき、犯人三島と呼び捨てにされ》た。この途中から呼び捨てになったことを、石原もまた怒りと共に記憶しているわけだ。

石原慎太郎はこの後、車を手配し、市ヶ谷駐屯地へと向かい、死んだ直後の三島と対面している。

証言とはこのことかと思わされる。
何か迫ってくるものがある記述です。


三島由紀夫の死をめぐっては多くの論客が分析や評論を試みていて、私も相当それらを読み込んでいます。三島の死をどのように受け止めるのかというテーマは今でも私自身結論が出てはいません。今後も三島の死を取り上げた評論は出続けるのではないかと思います。

しかしこの『昭和45年11月25日』という作品は、三島の死を評論したり分析しているのではありません。
ただ証言を集めているだけとも言えます。
しかし、集めた証言を一つの塊にすると、あの事件の衝撃の強さや、それぞれに与えた影響などが見えてきて、証言集から一つの思想が見えてくる気がするのです。本当に不思議な作品だと思います。

このように深く考えなくても、昭和40年台の日本の空気なども窺い知れてとても“分厚い”作品です。
毎年11月25日を迎えると必ず頭をよぎる三島由紀夫。
それを一風変わったアプローチで考えた作品。おすすめです。

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