読書日記 第21回 『ばらまき』

こんにちは。広島で遺品整理業を営むはっぴいえんどの西本です。

今回紹介する本はこちらです。
中国新聞「決別 金権政治」取材班『ばらまき 河井夫妻大規模買収事件全記録』です。
年末の広島の書店ではこの本が平積みで大々的に並んでいます。

2019年の参議院議員選挙から2年以上の歳月が過ぎたんですね。
2019年に行われた参議院議員選挙。
広島県では自民党候補が2人立候補し、分裂選挙となりました。
その裏で行われていた大規模買収。

その際に当選した河井あんり氏と夫の河井克行氏。
両氏が逮捕されその後、起訴、公判に至った事件。
多くの国民がその事件については耳にしていると思います。

その事件の顛末を広島県の地元新聞である中国新聞の取材班が1冊の本にしたためたのがこの本です。

実はこの本を手にしたのは数日前なのですが、あっという間に読んでしまいました。

個人的に無関係でないということと、あの事件は河井夫妻には判決は下ったものの、それ以外の謎については結局顧みられることなく闇に葬られようとしていることに関心があったのでしょう・・・スリリングに読ませていただきました。

この本は言うまでもなく河井夫妻の大規模買収事件を追った内容となっています。
それはそれは熱中して読んでしまいます。
例えば、河井夫妻が広島県の政治家として長年どんな立ち位置にあったのかをはじめとした今回の事件に至る背景も一般の方にとっては知らなかったことも詳述されていてすごい内容です。

その一方で“取材”合戦からの視点で差し込まれている記述もこの本のもう一つの魅力です。
この河井夫妻事件は最初は週刊文春による「運動員に対する報酬過払い疑惑」を端を発しています。
この辺り、後々出てきた疑惑や買収などがたくさんあり過ぎて誰が何を報じたのかがごちゃごちゃしているはずです。
夫妻によるお金のばらまきを最初に報じたのは地元紙である中国新聞だったのですね。
私自身、週刊文春の印象はありましたが、大規模買収自体は中国新聞によるスクープだったようです。その辺り記憶がなくなっていました。この本ではその辺りの報道による努力の過程なども書かれていて、ドキュメンタリーとしても読み応えがありました。

色々とバッシングもされる“マスコミ”ですが、時間も関係なく取材をして記事を書いて私たちにこのような大事な事件の内容や考える材料が届いているという事実。
忘れられがちですが、このような努力があって私たちの知る権利は行使されているのだなぁ。その舞台裏は壮絶だなぁと事件自体とは直接関係ない感想すら持ちました。取材班の方に敬意を表します。

そして、このノンフィクション作品を読んで“目から鱗”だったことがあります。
それは、被買収者の実像です。

大規模買収を仕掛けたのは河井夫妻です。
その一方で、お金を受け取った側が存在しています。

「そりゃそうだろ」なのですが、その人数は100人にものぼっています。帯にも書いてあります。
ただ、その100人が疑惑を報じられたときにどんな対応をして、事件が進展し河井夫妻の逮捕・起訴・公判と進む中で彼らが何を語って、どんな身の処し方をしているのか・・・・この辺りは河井夫妻にばかり目が行って見落とされていることです。

疑惑が報じられた頃は自身のお金の受け取りを否定していたが、途中から一転してお金を受け取った事実を認めた人。
長年の付き合いに縛られやむなく受け取った人。
自身が携わるまちづくりなどの活動に支障を与えたくないからやむなく受け取り後悔している人。
法的に問題のない所定の手続きをしているから問題ないと胃治っている人。

100人の表情はそれぞれ全く違っていたりします。
そしてその100人は全員起訴もされることなく今日に至っているという事実。

「安倍さんから」「二階さんから」というセリフが飛び出しながらお金のやり取りがあったという事実がありながら買収に使われたお金の出どころは追求されないままという事実。

河井夫妻への判決で終わったいるかのように見えるこの事件への根本的疑問など様々な疑問や問いがこの本では提示されています。声高にそれが文中で主張されてはいませんが、この事件を丁寧に追うとどうしても“わざと見落としているのではないか?”という事実が自然に並ぶことがよくわかります。

日々のニュースはインパクトがあって、問題の大きさなどの印象はよく伝わるものです。
しかし、細かいことではあるけれど、大切な問題というのはフローのように流れてゆくニュースの世界では見落とされがちです。

それを書籍という形で丁寧にまとめると、その忘れられた細かい事実の数々が実は膨大な量にわたっていて、それこそが本当は問題なのではないかと浮かび上がってくるようです。

河井夫妻事件に関心がある人にはこの本はもちろんおすすめですが、それ以上に事件の表層の裏にある見落とされたこと・・・すなわちお金を受け取った人たちの実像こそがこの本の白眉です。

広島県民にとっては自分達が住む地域で起こったこの事件。
ぜひ読んでこの事件を丁寧に振り返ってみて、今後の地域政治への投票に活かしていきたいなと思いました。

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